温室効果ガス削減に向けての岩盤工学の果たす役割の調査準備委員会


研究目的

 二酸化炭素の岩盤内貯留技術(CCS)は,今年2月3日に米国が実用化方針を発表するなど,いま世界的に注目されている低炭素化技術の一つである.我が国でも低炭素社会実現のために,様々な機関でCCS技術に関する様々な基礎研究が進められている.しかしながら,はじめに手本となった海外の先例が油田を利用したもののためか,我が国のCCSの研究は,当初から石油を中心とした資源関係の技術者の手で進められており,土木学会に所属する岩盤工学系技術者は現在まで積極的な参画の機会を見出せないでいる.
 土木学会の岩盤工学系技術者は,これまでに原油やLPGの岩盤内貯蔵といった国家プロジェクト実現の中心的役割を担ってきており,また,圧縮空気貯蔵(CAES)などの新技術の研究をリードするなど,岩盤を利用した国家的プロジェクトにおいては,常にその先頭において技術者としての使命を果たしてきた.そして,低炭素社会の実現に向けた技術の確立が国家的課題となっている今,岩盤を利用するCCSが有効な低炭素化技術の一つであるとすれば,CCSに関する情報の集約あるいはその研究の受け皿となる部署が土木学会に存在しないのは,その社会的使命に照らして不自然と言わざるを得ないであろう.
 本件は,こうした現状認識と問題意識を背景に,岩盤力学委員会の中にCCSに関する研究小委員会を立ち上げる事前検討を行うべく,CCSが実現するための様々な課題を抽出・整理し,そこで岩盤工学が果たすべき役割について調査研究を行うものである.

研究内容

 CCS実現には以下のようなハード,ソフト両面の課題がある.
 (I)CO2の効率的かつ安定的な岩盤注入方法の確立と貯留の長期安定性の保証
 (II)CCSによる社会的費用・便益の明確化
そこで,本調査研究ではこれに関連する以下の細項目:
  1)岩盤内におけるCO2(超臨界,相変化など)の実際の挙動
  2)岩盤内貯留CO2のモニタリング技術の現状
  3)CO2圧入(超臨界,相変化など)と貯留に関するシミュレーターの現状
  4)CCSのCDM適用の可能性
に関して,国内外の事例を手掛かりに情報の収集・整理を行うとともに,年4回程度の研究会を開催し,CCSプロジェクト関係者,環境経済の専門家,大口排出企業体の環境対策担当者の方々を招いて専門的知識を提供していただき,上記1)から4)に関する討議・アドバイスを通して,CCSの実現と岩盤工学が解決可能な課題の整理を行う.

今年度の活動

第1回委員会: 平成22年3月16日
 講演:
  「我が国におけるCCSへの取り組みの現状と課題 -2020年の実用化に向けて-」

    経済産業省 地球環境技術室  小澤 典明氏

第2回委員会: 平成22年5月31日~6月1日 RITE訪問 (対応者: 薛自求氏)
第3回委員会: 平成22年11月17日 土木学会
 岩盤力学に関するシンポジウムにおけるパネルディスカッションの実施について

第4回委員会: 平成22年12月9日 産業技術総合研究所訪問 (対応者: 駒井武氏)
第5回委員会: 平成23年1月14日 土木学会
 第40回岩盤力学に関するシンポジウムにおけるパネルディスカッションの開催

  テーマ:「我が国でのCCS実現における岩盤工学の果たす役割について」

  パネラーおよび話題:
    1. 小澤 典明(経済産業省)
     「CCSに関する政策と課題」
    2. 遠藤康之(東京電力)
     「産業界のCO2削減の取り組みとCCSについて」
    3. 薛 自求((財)地球環境産業技術研究機構(RITE))
      「CO2圧入時の物性評価とモニタリング技術の現状と課題」
    4. 山本 肇(大成建設)
     「シミュレーション技術の現状と課題」
    5. 岸田 潔(京都大学)
     「CCSは本当にやるべきことなのか,その技術的課題とは」

委員名簿

役職 氏名 所属
委員 長田 昌彦 埼玉大学
委員 岸田 潔 京都大学
委員 京谷 孝史 東北大学
委員 澤田 昌孝 (財)電力中央研究所
委員 清木 隆文 宇都宮大学
委員 森岡 宏之 東電設計(株)
委員 吉田 秀典 香川大学